明日、多分、君を。 SIDE:R

※もしも涼香にバグが起こらなかったら。そんな話。

 

 

柚子さんが、いなくなった。

あっけなく、何も、なかったみたいにあっけなく。

私はそれに何を思うわけでもなく。

何を、思えるわけでもなく。

 

 

「おはようございます、須川さん。」

「・・・おはよう。」

須川さんは、柚子さんがいなくなってから笑わなくなった。

それがなぜなのかは、私にはわからない。

そして、そのことに疑問を抱くことも、ない。

「・・・おまえはさぁ、柚子が死んで、何も思わないわけ?」

「何も、とは?」

「せめて、“これから私の整備は誰がやるの?”とかさぁ。」

「なぜ?」

「・・・おまえさぁ、柚子のこと、好きか?」

「好きですよ。」

「それには即答かー・・・。」

「はい、私は、柚子さんのことが好きですよ。」

久しぶりに言ったな、この台詞。

「・・・もう、いいよ、おまえ。」

須川さんは私に怒ったりしない。

ただ、ただ、がっかりしたような、軽蔑したような目をするだけ。

私がそれに、何か思うことはない。

「・・・おまえに言ったってどうしようもないんだしな。」

須川さんは、とても後悔しているみたいだった。

「後悔?」

「はぁ?」

「後悔、してるんですか?」

「・・・してるよ。俺は、最後まで柚子を笑わせられなかった。」

「それは嘘です。」

だって、柚子さんはあんなに笑っていた。

そういうと、須川さんは悲しそうな顔をして、笑う。

「そう、だな。」

全然そんなこと思ってない口調で、そう、笑った。

 

 

 

不思議なひとなんだと思う。

柚子さんが好きで好きで、でもそれを本人に言うことができなかったひと。

(どうして、でしょう。)

好きだと言うことはこんなにも簡単なのに。

「好きですよ、柚子さん。」

その言葉は、ふぅわりと、空に消えた。

 

 

 

私は変わらず、日々を過ごしていく。

何にも、変わらずに。

いつも通りの日常を、今日も、過ごす。

それだけ。

それ、だけ。

 

 

主人のいないアンドロイドは、今日も、変わらず、日常をこなしていく。

特に、何を思うこともなく。

 

 

 

 

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