三足180円のクリスマス

「え、クリスマスに仕事ですか」

「逆に聞くけどクリスマスも学校ですか」

毎年のように終業式がクリスマスなんですもん、と口をとがらせる河津。

可愛すぎて『今の表情もう一回!』と言いそうになってしまった。

や、引かれるからそんなこと言いませんけど。

「でも、寂しさでいうなら先生の方が圧勝じゃないですか。

先生もういい歳した大人ですよね?彼女とデートする約束もしないで仕事とか」

「この間彼女いないって言わなかったっけ」

「・・・先生なら三秒くらいで彼女できてもおかしくないです」

何なのその買いかぶりは。

え、でももしかして異性として魅力的っていう遠回しな誉め言葉なんですか。テンション上がって良いですか。

「だって先生なんか・・・チャラい」

「えー・・・?俺、チャラくないよ?」

俺のテンション下げさせてくれてありがとうございます。

「チャラくないよの言い方がチャラいですもん。絶対言い慣れてますよね。ってことは皆の印象はチャラ男ってことですよね」

「待て待て。んな、俺を責めるな。チャラくもないし、言い慣れてもないし、そもそもお前はチャラ男になんか恨みでもあんのか」

弄ばれたとか。よし、そいつの名前教えろ。二度と社会復帰できなくさせてやる。

「たいていのチャラ男は女の子を弄ぶからは大嫌いですよ」

あー、ですよねー。河津ってそういう子だもんねー。フェミニストかっこいいや。・・・うん。

「大体ね、受験業界にクリスマスなんて概念があるわけないだろ」

「あー・・・まぁ、そうですねぇ」

微妙に遠い目をしているのは自分の受験時代を思い出しているからなのか。

「でも、こう・・・塾の受付のお姉さんとか誘ってぶいぶいいわせたりしないんですか」

「ぶいぶいいわせるなんて使う高校生はお前が初めてだよ」

「えー皆言いますよ」

「嘘つけ。第一俺の塾は職場恋愛禁止だし。塾の先生がイチャついてたら受験生嫌だろ」

「・・・寂しいですねぇ」

なぜそこでしみじみとするんだ。

「まぁ、この職業選んだのは自分だしな」

それに、この職業じゃなかったら河津に出会えなかったんだから、俺は心底この職業に感謝してるんだ。

「まあ、じゃ。ハッピークリスマスです」

「へ?」

「せめて今この一瞬でも先生にクリスマス気分を味わってもらおうと」

「あー・・・うん。ありがと」

やばい、ニヤける。

こういうところが、好きだ。

「ま、私クリスマスにカップルで過ごす人、大っ嫌いですけどね!クリスマスは家族と過ごす日ですよ。

カップルでいるからサンタさんが来ないんですよ!この俗物が!」

「え、ほら、恋人はサンタクロース」

「先生古いですよ」

古くないだろ。少なからず”ぶいぶいいわせる”よりはマシだろ。ケーキ屋でよく流れてんじゃんか、あの曲。

「・・・先生がクリスマスにカップルで過ごすような人じゃなくて良かったです」

その言葉は。

・・・他意はないと知っていても。

(『先生が誰とも付き合ってなくて良かったです』っていう、変換)

あー、俺、変態染みてる。知ってる。でも好きだ。

まぁ、絶対他意ないけどな。軽く殺意のようなもの感じたしな、目の前のカップルへの。

 

 

「それじゃ、さよならです。ハッピーバースデー、イエス・キリスト!」

「こんの、あまのじゃく!」

さっきは普通に言ったくせに!

 

 

あぁ、でも、なんだかちょっとした幸せとニヤニヤを抱えながら。

(だって、俺、クリスマスに好きな子と過ごせたんだもんなぁ)

今日は会えないだろって思ってたのに。

ごめん、河津。俺は俗物だ。

そんなこと言ったら心底河津は引くんだろうけど。

・・・でも、好きだ

 

 

 

 

 

 

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