1、
俺には、好きな人がいる。
明るくて、ちょっと干物女で横暴だけど、優しい、どこか寂しげなひと。
でも、多分あの人には好きな人がいるんだ。
わかる。好きな人のことだから、みればわかる。
わかって、しまう。
「前田さんって、好きな人いるんすか?」
わかってるくせにこんなことを聞く俺は真性の阿呆だ。自分から傷をぐじぐじいじりにいく。いてぇよ。
「なんで?とうとつだね。」
「いや、前田さんってすげぇ美人じゃないっすか。なのに、彼氏いるって聞かないんで。好きな人いるのかなーって。ちょっとした世間話っす。気にしないでください。」
「ちょっとした世間話が恋バナって君は女子高生かい。」
そういってゆるりと笑う。
「んー・・・好きな人ねぇ。・・・いるよ。」
そういって痛そうに笑う。
俺も痛い。
「そうっすか。」
「え、土屋くんから聞いてきたのに反応それだけ!?冷たっ!!・・・・・・んー、じゃあさぁ、土屋くんはいるの?」
「・・・いますよ。」
「お、さっくり言い切ったねぇ。お姉さんそういう子好きよー。」
「お姉さんって・・・。3歳しか違わないじゃないじゃないですか。」
好きとかあっさり言われると恋愛対象外なことをさっくりつきつけられてさっくり傷付く。
でも、ちょっと喜んじゃう俺は、浮かれちゃう俺は、やっぱり真性の阿呆だ。
・・・ニヤけるなよ、自分。大の男が気持ち悪ぃ。
「えー、3歳って意外と大きいよ?だって、同じ中学通えないんだよ!?同じ高校通えないんだよ!?」
「同じ小学校と大学は通えますけどね。」
「・・・土屋くん生意気ー。モテないぞー。」
「一人の人にモテれば俺はそれでいいっす。」
「お、さっくりそういう台詞言うの滅茶苦茶かっこいい!!ひゅーひゅー。」
そういいながら、前田さんはかたりと立つ。
「あ、残業終わったんすか?」
「ん、横山くんはあとどれくらい?」
「今終わったっす。」
「じゃあ、一緒に帰ろっか。」
「・・・はい。」
こんな暗いなか一緒に帰るとか。送り狼になってもいいですか。だめですか。
・・・耐えろ、自分。男だろ。
・・・・・・男だから耐えられないんす。これだから男は。
・・・でも、耐えるんだよなぁ。
だって
好きだから。
俺の好きなひとは、無防備なひと。