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※風邪明けに久々に文を書いた前作が個人的に面白くなかったというか気に食わなかったので続編を風邪明けの今久々に書いてみる。

 

 

 

「ねぇ、亮二」

「何?優衣」

「・・・何でそんなに怪我してるの?」

そういって優衣は血がどくどくと溢れている俺の二の腕をぐりぐり掴む。

「優衣、痛い痛いって・・・、いや、さっきクローゼット片付けてたら鋏落ちてきて」

「・・・ふーん」

ぐりぐり。

「どうしたの、優衣」

「気に食わないなぁって」

「へ?」

「あたしは亮二のもの、亮二はあたしのもの、でしょ?」

「うん。当たり前でしょ?」

「だったら、亮二の血もあたしのものなの。亮二は勝手に怪我しちゃいけないの。亮二を傷付けていいのはあたしだけなの」

「優衣、」

「・・・気に食わない」

そういって優衣は俺の怪我した二の腕をぐりぐりと舐めた。

「いっつ・・・!」

ぐりぐり。俺の小さな悲鳴など聞こえないみたいにぐりぐり。

「優衣、汚いから・・・!人の血舐めちゃ駄目だよ!病気になるんだって!」

「・・・亮二が気にするのはそこなんだ」

そう呟くと、優衣はなんだか満足そうな表情で俺の二の腕を放した。

(あ、でももう少し舐めていてもらいたかったかもしんない)

我儘で欲張りな俺はつい思ってしまった。

「亮二の血なら汚くないよ。亮二の血を飲んで病気になるんだったら別に良い」

「え、何それすげぇ嬉しい。でも、だーめ。優衣が病気になったら俺もう生きていけない」

というか、あれ?優衣ってこんな子だっけ?

明るくて、優しくて。あと、俺といるようになってからはちょっと壊れちゃったからお人形さんみたいにふわふわしてて・・・

・・・こんな眼を、する子だったっけ?

「ふふ、亮二。大好きだよ?」

そう言った優衣の眼は、獲物を狙う狩人のようにギラついていた。

・・・まぁ、いっか。可愛いし。

優衣は、優衣なわけだし。

優衣が優衣でいてくれれば、俺は幸せ。

 

 

「ねぇ、亮二。亮二も、もしもあたしが怪我したらあたしの血を舐めてくれる?」

「優衣の怪我が悪化するといけないから消毒液を優しくふりかけるかな」

まぁ、本当にそういう状況になったら舐めちゃうかもしれないけど。

優衣の血なんてもったいなくて一滴もこぼしたくない。できるなら飲んじゃいたい。理性との戦いだなぁ。

「じゃあ、あたしが舐めてっていったら?」

「優衣が舐めて欲しいならいくらでも舐めるよ。むしろ、舐めさせて欲しい」

でも、そのあとの悪化が怖いから舐めた後に消毒液。

俺は臆病だから優衣が傷付くのが怖いんだ。

「・・・そっか」

優衣は俺の返答を聞くと満足そうに笑う。

そして、

「じゃあ、舐めてよ」

近くにあったカッターを思い切り自分の二の腕に振り下ろした。

「ちょ・・・っ!優衣、優衣優衣優衣優衣、ゆい!」

駄目だ、理性となんか戦えない。戦闘相手であるところの理性はとっくに白旗振ってた。

俺はとっさに優衣の二の腕に舌を這わせていた。

(・・・一滴も、優衣の、血)

「・・・優衣、なんで自分を傷付けたりなんか・・・」

優衣の二の腕をもごもご舐めながら問いかける。

「・・・だって」

優衣が拗ねた表情で答えてくれる。

(あ、今の表情可愛い)

「亮二最近冷たいもん」

「へ?」

俺がいつ冷たくしたんだろう。

「寂しいの」

優衣が可愛すぎる。

「・・・だって、あたし、亮二の不安そうな表情が一番好きなのに」

「亮二最近笑ってばっかりじゃんか」

「幸せそうで満ち足りてる亮二も好きだけど、そんなに幸せそうじゃつまんないよ」

「不安で不安で渇いてて、いつあたしを失うのかってハラハラして、苦しそうで辛そうで、あたしに対して貪欲ですがりついて」

「そんな亮二が好きなのに」

「・・・なんで満足してんの?もっともっと、あたしを求めてよ、すがってよ、幸せになんかなっちゃ駄目」

・・・え?

「優衣、何言って」

「ねぇ、亮二」

「っ、うん、何?優衣」

「あたしのこと、好き?」

「もちろん!大好きだよ、」

「じゃあ、なんで幸せそうなの?」

「・・・それは、大好きな優衣とずっと一緒にいられて、やっと優衣の傍にいられるっていう夢が叶って、だから俺・・・」

俺?

「幸せで・・・」

・・・今、やっと優衣が何を言いたいのかわかった気がした。

「俺、浮かれてた・・・、優衣と一緒にいられて満足しちゃって」

「うん」

優衣がやっと満足そうに笑い始める。

(・・・あぁ、俺、やっぱり優衣の笑顔が好きだなぁ)

「もっと、もっと求めなくちゃいけなかったんだね。昔みたいに、がむしゃらに、優衣を」

「そう、人を愛することに上限はないんだよ、だから現状に満足してちゃ駄目」

「そうだよね・・・。・・・へへ、やっぱり優衣はすごいや、俺が間違えそうになったらすぐに正しい方へと戻してくれる」

「当たり前だよ。だって、あたし亮二のことが大好きなんだもん」

「俺も優衣のことが大好き」

「知ってる。だからさ、」

「ん?」

「あたしの血、もっと飲んでよ」

「へ?」

優衣が今度は自分の手の平を刺した。

「優衣!?」

慌てて舐める俺。

「あたし、亮二と一つになりたいの。だから、あたしの血を飲んでる亮二を見ると嬉しいの。・・・だから、もっと舐めて」

「優衣、ありがとう嬉しいけどこれ以上自分を傷付けないで、優衣の体に傷が残っちゃうよ・・・」

俺はなんだか泣きそうになる。

「駄目だよ」

「優衣」

「あたしのこと好きなんでしょ?あたしも亮二のことが好き。だから、舐めて、飲んで」

 

 

 

 

それから、今。

優衣はすっかり俺の気を引くために自傷癖がついてしまったんだけれど。

随分、優衣の雰囲気が昔と変わった気がするけど。

・・・俺はやっぱり、優衣の傍にいられるだけで、幸せです。あと正直優衣の血なら美味しい。俺には理性はなかった。

まぁ、幸せなんて言ったら優衣に怒られちゃうけど。

最近はすっかり、消毒液の減りがはやい日々です。

 

 

 

 

 

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