あの子の話

あの子の胸は、とても大きい。

 

「うわぁ、橋本さんの胸大きい!!」

「や、やめてよ・・・。」

 

そんな風に嫌がったりしちゃってさ。

自慢かコノヤロー!!

 

 

私の胸は、とても小さい。

 

 

女子校ではありがちなお胸のお話。

貧乳な私としてはかなりナイーブなお話。

 

 

「私は小さい方がいいなぁ。大きいと肩凝るし、疲れるし、なかなか合う服もないし・・・。」

「何その贅沢な悩み!!」

そう言ってからから笑ってる橋本さんのお友達。

そこで笑える時点で君は十分胸が大きいって。

小さい方がいいだなんて、ブラックジョークもいい加減にして。

・・・なんてさ。

わかってる。大きい人にはそれなりの苦労があるんだって。

大きい人は小さい人を羨むし、小さい人は大きい人を羨む。

所詮全部、無いものねだり。

人は自分に無いものに憧れるんだから。

 

「とか真面目そうに語ってるけど、コレ胸の話だかんね?」

「わかってるよぉ・・・。正論が無い胸に痛い。」

「正論っつーか・・・。もうどこから突っ込めばいいのやら。」

「みのりちゃんは胸が大きいからそんな風に余裕ぶれるんだよ!!」

「余裕ぶるっつーか・・・。というか、あたしが大きいんじゃなくてあんたが小さいだけだから。」

「ぐほっ・・・。」

「自分で効果音言ってないで牛乳飲め牛乳。」

「みのりちゃん牛乳飲むと胸が大きくなんてことに医学的根拠はないんだよ!!だから私はそんなものに頼ったりしないよ!!」

「ほー、じゃあ手に持ってるのは?」

「・・・牛乳デス・・・。」

「はいバーカ。」

「違うもん、私はただ牛乳が好きなだけだもん・・・。・・・あとね、牛乳飲んでも背は伸びないよ・・・。」

「あんたチビだもんねー。別に良いじゃん、牛乳飲んだら骨が太くなって骨粗鬆症予防になるし。」

「みのりちゃんよく”こつしょしょうしょう”噛まずに言えるね・・・。」

「はいバーカ。」

「・・・。ち、が、う、の!!私は”きょつしょしょうそう”の話してんじゃないの!!胸の話なの!!」

「大声で胸とか言わない。あと骨粗鬆症ってどんどん言えなくなってんじゃん。」

「・・・ねぇみのりちゃぁん・・・。どうして橋本さんの胸はあんなに大きいのかなぁ・・・。」

「セクハラ親父。」

「そうじゃなくて!!私はただ、胸が大きくなりたいって、言うか・・・。」

「だからってそんなジロジロ人の胸見るんじゃないの。」

「・・・橋本さんの胸揉んだら私の胸も大きくなるかなぁ。」

「痴女は捕まれ。」

「よし、揉ませてもらおう。」

「人の話聞けよ!!」

「橋本さーん!!」

「・・・・・・人の話、聞けよ。お前は、胸がフツーなあたしには、興味がないんかっての。」

(あたしは、胸がない君も好きなのに。ひでぇ話。)

 

 

「は、橋本さん!!」

「浅野さん。なぁに?」

「胸揉ませて!!」

「何言ってるの!?」

「橋本さんって胸大きいからさぁ、揉んだら私も大きくなれないかなぁって。」

「・・・・・・。」

「橋本さん?」

「・・・ヤダ。」

「え?何で?」

「ヤダ!!絶対イヤ!!」

「え?あ、橋本さんどこ行くの!?」

「変態のいないとこ!!」

変態でごめんなさい。

その時の彼女の声は私の頭にこびりついた。

 

 

その話をしたらみのりちゃんに大爆笑された。

「あはは、胸揉ませてって、お前・・・。あははっ。」

「そんな笑わないでよ・・・。」

「そりゃ橋本さんびっくりするわな。橋本さん言ってることが正論過ぎて・・・!面白!!」

「面白がるなよぅ・・・。」

「・・・真面目な話さぁ。いきなり胸揉ませてとかあんた橋本さんに失礼でしょ。しかも、橋本さん胸大きいの気にしてんじゃんか。・・・傷付けたんじゃないの。」

「・・・・・・。」

わかってる。失礼だったって。

でも、でも。

「あんたさぁ、橋本さんが好きで話してみたいからっていきなり過ぎでしょ。」

「な、なんでそれを・・・!!」

「あのねぇ、毎日毎日橋本さんの話されてたら気づくっての。・・・”大きな胸”じゃなくて”橋本さん”が好きなんだって。」

「・・・みのりちゃん・・・。・・・気持ち悪いとか、思わないの?」

「なんで?」

「・・・だって、女が女のこと好きなんだよ?それを隠したくて胸が気になってるふりし続けてたのに・・・。」

「あんたの演技なんてバレバレに決まってんでしょ。第一、何であたしがあんたのこと気持ち悪がらなきゃいけないのよ。あんたは、あたしの、」

(あたしの、)

「・・・大事な友達でしょ。」

「み、みのりちゃん・・・!!」

「はら、橋本さんのとこいっといで。ちゃんと謝らなきゃ。ついでに告っちゃえ!」

「・・・ありがと、、みのりちゃん!!大好き!!」

そう言って、あの子は、彼女の方へかけていく。

あたしから、離れていく。

「・・・ははは、あたしは馬鹿か・・・。」

敵に塩送っちゃってさ。

大事な友達なんて言っちゃってさ。

なんて弱虫。好きな人に好きということすらできなくて。

なんて気持ち悪い。まだ、あたしはあの子がフラれることを期待してる。

橋本さんがずっとあの子のこと見てたの気づいてたくせにね?

あの子が橋本さんを好きなのも橋本さんがあの子を好きなのも気づいてて気づかないふりしちゃって。

(ひでぇ話。)

・・・きみが好きです。

 

 

 

「は、橋本さん!!」

「な、なに・・・?」

(まずい、完璧に敵意持たれてる・・・!!)

「ほ、ほんとは、私は胸じゃなくて橋本さんが好きだ!!」

(ばっか、私テンパったからって何口走ってんだ!)

って、え・・・?

(泣かせた・・・!?)

「ご、ごめん、気持ち悪いよね!忘れていいから!!」

「あ、ち、ちがくて!」

「へ?」

「私、も、ずっと浅野さんのこと好きで、浅野さんが私のことよく見てくれてるの気づいてて、嬉しくて・・・!でも、話しかけられたの胸の、こと、だったから、浅野さんは私の、胸にしか、興味なかったの、かなって・・・。」

何コノ展開。夢?

橋本さんが、私を好きって。

「好き、なの・・・。だから、嬉しくて・・・。」

「・・・。う、嬉しくて死にそうだ。」

「へ・・・?」

「うわぁ、何コレ嬉しすぎる!!橋本さん可愛すぎる!!ニヤニヤする!!」

「え?」

「どうしよう、聞いてくれよって今この中庭に誰もいないけど!!こんな可愛い子と私両想いなんだぜ!!」

「あ、浅野さん!!は、恥ずかしい!!」

ばちこん。

叩かれた。

でもどうしよう。この痛みにすら、ニヤニヤする。

 

 

 

「で?結局付き合いましたーっと。」

「うん!!」

「・・・デレデレ顔キモっ。」

「えへへー、だって橋本さんと両想いなんだよぉ。」

「キモ・・・。」

「みのりちゃんにはお世話になったから。みのりちゃんがいなかったらこんな展開にはならなかったよ!!」

「はいはい。」

「じゃあ、橋本さんのとこ行ってくるね!!」

「へーい。いてらー。」

そういって、君は、

私から離れて。

 

 

あの子の傍で幸せそうに笑うんだ。

 

(うわー、ニヤニヤしすぎでしょ・・・。)