1、モルモットは食べる
そこらじゅうにただよっている何かが腐ったみたいな臭い。
てきとーに倒れてるよくワカンナイ人たち。
ピンクだのオレンジだのやたらビビットでカラフルな、くすんだ色をした建物。
いつも通りの、風景。
それなのに、なんか気持ち悪くて。すごくすごく気持ち悪くて。
道端で吐いた。
案の定胃液しか出てこなかった。
(前、食べたの何日前だっけ・・・。)
まぁ、いいか。そんなこと。
「一人でこんなとこ歩いてて、危ないっすよ?」
いきなりやる気がなさそうな声でそう言われた。
人間嫌いのこの男と知り合った今から考えると、話しかけられたなんて多分かなりの奇跡。
「・・・今の時代に、そんな声かける人初めて。ナンパ?」
「いやぁ、そーゆーんじゃなくって。あそこにいるオジサマが君のことねっちこい目でみてたんで。ナンパされそうになったのを助けてみましたっとさ。」
「意味、わかんない。」
「そっすか。つーことで、行きますか。」
そういうと、そいつはいきなり私の手をつかんですたこらさっさと歩き始めた。
「へ?な、何?」
「目の前で人身売買とか嫌なんすよー。」
「・・・はぁ。そっか。」
よくわかんないけど納得するのは、私の悪い癖。
「で?制服ってことはオジョーサマなの?」
この質問は当たり前だ。今日び学校なんて行ってるのはお金持ちだけだから。
「違う。友達のオジョーサマが中学校の時のくれた。これしか今入るサイズの服がないから着てるだけ。」
「あー・・・、どうりでちと小さいのか。まったく、そんな格好してるからオジサマに狙われちゃうんでしょーが。」
つか、本当に友達?おいはぎしたんじゃなくて?
なんて、失礼なことをのたまいやがる。
「ほんとに友達。あの子のこと、これ以上なんか言ったらとりあえずお前のその高そうなシャツにこのシェイクぶっかける。」
人のことオジョーサマとか聞いてるけど。こいつ絶対金持ちだ。
「おごってあげた人になんたる失敬な。」
「・・・。」
私はがつがつとハンバーガーを食べる。
(・・・食べたの、何日ぶりだっけ。)
やばい。久しぶりに胃にもの入れたら気持ち悪い。吐きそう。
「・・・うぇ。」
とか考えてたら本当にちょっと食道にすっぱいものがやってきた。
「うわ、ここで吐かないでくださいよー?怒られんの俺なんすから。」
「・・・ごはん。ありがと。」
「は・・・?・・・・・・はは、ははははは!!」
何コイツいきなり笑いだしてんの?
「うわー、そーくるか。あぁ・・・。」
きも。
「ねぇ、もういっこハンバーガー頼んでいい?」
「はは、いいっすよー。てかお礼言ったのはもう一個食べたかったから?」
それはそれで面白いけど。
やっぱり、こいつの言ってる意味、わかんない。
「ちげーよ、ばか。食べ物の恨みは深いけど、食べ物の恩も深いんだよ。」
「うわ・・・。やっばい君のこと超気に入った。」
やっぱり、今考えると人間嫌いのこの男がこんなこと言うなんて、相当機嫌がよかったんだと思う。
「ねぇ、俺の実験体にならない?モルモットー。衣食住は保障するよ、ちゃんと三食あげる。」
「うん。いいよ。」
三食くれるなら、なんでもいいや。
「うん。じゃあ、俺の家いこっか。」
わーい、とりあえずしばらく食事できる。
わーい。
こうして、私とこいつの生活が、始まった。