糸電話メリーさん

※付き合ってしばらく経った時のお話。

 

「もしもし。」

「も、もしもし・・・!!」

 

「・・・糸電話でも、まだ恥ずかしい?」

「・・・うん。ごめん。」

 

小町が外に出るようになってから一カ月後。顔を合わせることにはだんだん慣れてきたが、触られたり、面と向かって話したりすることにはいまだ慣れないらしい。

しばらく顔を合わせながら電話をする日々が続いていたがなんと今日、糸電話に進化した。

・・・ははは。

 

「初めて俺と顔合わせた時は出来たじゃんか。」

「だって、あの時は必至で・・・!!」

「まぁ、いいけどさ。・・・糸電話握りしめながら照れてる小町可愛いから。」

「か、か、かかかかか・・・・・・!!」

可愛い、なんて台詞で照れてる小町は、やっぱり可愛かった。

 

 

「兄ちゃん、きっっっも!!!!」

「ひでぇ。」

「何今の話!!鳥肌がぁぁぁ・・・。」

「え、どこにんな引く要素あったんだよ。」

「引く要素しかないよ!!何可愛いとか言ってんの、何ニヤニヤしてんの、何恋叶ったらキャラ変えて肉食系になってんのこのチキンが!!お前は食べられる側でしょうが!!」

「お前混乱しすぎて何言ってんだかわかんねぇぞ。・・・・・・だってさ、小町可愛いから。」

「おえええええ・・・。まぁ、小町可愛いけど。」

「吐くなよ。あと、可愛いの部分だけ真顔になんな。」

「小町の可愛さは正義!!あああ・・・小町にケダモノの手がぁぁ・・・。いやぁぁ・・・。」

「実の兄をケダモノ扱いするんじゃありません。」

「でもどーせ、頭のなかは小町とのいかがわしい妄想でいっぱいなんだろ!?」

「そんなんじゃねぇよ・・・。」

妹怖い。

「へぇ、じゃぁ小町には触りたくもないしキスすらしたくないってか!?ふざけんな!!」

「お前どっちだよ!!めんどくさい女だな・・・。・・・そりゃまぁ、色々、考えるけどさ。」

男の子だもの。仕方ないじゃないか。

「きゃー、おまわりさんここにケダモノがいますー。」

「お前なぁ・・・。」

 

 

そんな会話をついこの間妹としたせいで、

(小町の顔をまともに見られない・・・!!)

良いにおいだなぁ、とか、触ったら柔らかそうだなぁ、とか。

ここでそんなこと考えてる時点で妹に負けてる。

だから、騙されやすい人になりたいんだけどなぁ。

「松野、さん・・・?」

「あ、なんでもない!!ごめん、ボーっとしてて。」

「・・・・・・ごめんなさい。」

「へ?」

「つまんないですよね。私といても。」

「・・・何で?」

「面白いことも言えないし。何より、付き合ってるのに、面と向かって話すことも、触ることもできなくて。」

「・・・あのなぁ、」

「・・・はい。」

「俺が、小町に惚れたきっかけって、電話だよ?」

「でも、あれは、メリーさんで・・・。」

「俺は、メリーさんを含めた小町が好きなの。小町といるだけで楽しいの。・・・だから、そんな不安そうな顔すんなよ。今は、顔が見えるんだからわかんだよ。俺はそれだけで十分。・・・・・・あー、俺今なんかすげぇ恥ずかしいこと言ってるけど!!」

俺は何血迷ってたんだろうな。

「もちろん俺は小町に触りたいし、正直男だからまぁ、その・・・色々な欲望とか、あるけど。」

ここはちょっと濁させてくれ。

「今の、糸電話に照れてる小町、は今しいかいないんだから、俺は小町の全部が好きだから。今の状況もこれはこれで楽しいんだよ!!」

まぁ、はやく普通に話せるようにはなって欲しいけどな、と、一応釘はさしておく。

「・・・・・・ありがとう、ございます。」

「あー、もう、泣くなって。・・・頭、撫でていい?」

小町は泣きながらこくんと頷いた。え、まじでか。

・・・すげぇ、可愛い。

「私は、弱くて、松野さんに、迷惑かけてばっかりで、なのに、松野さんは優しくて・・・。」

「だからぁ。・・・あ。もうさぁ、そんなに迷惑かけてると思ってるんだったら俺の名前呼んでくんない?」

「へ?」

やばい、目が潤んでて上目遣いとかほんとやばい。

「名前。知ってるよね?」

ここで知らないとか言われたらショックだけど。

「そ、それは知ってますけど・・・。」

「じゃぁ、お願い。」

なんか、滅茶苦茶楽しい。

「・・・た、た、た、」

「た?」

「た、た・・・・、拓・・・さん。」

「俺の名前にさんはついてないよー。さんつけると”たくさん”って言われてるみたいで嫌だ。」

「よ、呼び捨て・・・?」

「呼び捨て。」

「た、た・・・た、た、た・・・・・・たっくん・・・?」

「へ?・・・あはは、あはははは!!」

何この子滅茶苦茶可愛いんだけど。

「そ、そんな笑わないでくださいよぅ・・・。・・・呼び捨ては、まだ、恥ずかしい、です。」

あ、だめだ、可愛すぎる。

そう思った瞬間、俺は小町の唇に、

「へ・・・?」

やっちまった。でも、

「あ、謝らない、から・・・。」

俺は馬鹿か。

「・・・あははっ。謝らなくていいですよ。・・・嬉しい、です。」

だから、何この子可愛すぎる。

・・・耐えるのはきついけど、この先は我慢しよう。

(だって、絶対後悔するから!!)

 

 

今は、こんな、中学生みたいな恋愛も楽しいんだ。

ちょっと、触って照れて。名前呼んで照れて。

 

 

でも時々、小町が可愛すぎて色々辛い。

(天然で、あれは卑怯だ・・・。)

馬鹿みたいにニヤけてしまう。

あぁ、神様。小町が好きすぎて、辛いです。

 

 

 

 

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