廻るバレンタイン

「今日はバレンタインだね、土屋くん」

「あ?あー・・・そうっすねぇ・・・」

前田さんが唐突に嬉しそうに話しかけてきたと思ったらまさかのバレンタイントーク。

「え、前田さんバレンタイン興味あるんですか」

「なんじゃい、その言い方。君は相変わらず失礼だなぁ。

そもそも興味ある云々以前にバレンタインは最早国民行事じゃない?」

「国民行事・・・ではないっすよ。俺毎年職場の義理チョコ以外貰わないし、俺の人生に影響を与えない行事ですね」

そう返すと、前田さんはなぜか驚いたように口をパクパクさせている。可愛い。

「びっくりした・・・。土屋くんチャラいから絶対モテモテで、チョコ貰おうと思ってた・・・」

嬉しそうに話しかけたのはそれが狙いだったのか。

「・・・モテなくて悪かったですね。何ですか、前田さんそんなチョコ好きなんすか」

「や、別に?」

なんなんだよ、この人。こういうところがいちいち好きな俺もなんなんだよ。

「・・・バレンタインは、合法的に女の子からチョコが貰えるから素敵な行事だと思う」

「・・・そういう。友チョコじゃないですか」

ニヤニヤと幸せそうに言う前田さんに、なぜかよくわからないが腹が立って、つい意地悪なことを言ってしまう。

「・・・本当うるさいなぁ、土屋くんは」

その顔が、どうしてか淋しそうで。何でこのノリでいきなりシリアスモード突入したのかもついていけない俺は、

(あ、・・・前田さんが好きなのは、望月・・・女、だった)

いつもヘラヘラ茶化していても、やっぱり同性が好きなのはしんどいのだろうと。俺もつられてシリアスモード。

(俺はその恋を応援することはできないけど)

「そうだ、俺がチョコ作ってあげますよ。明日になっちゃいますけど」

「え、何それかっこいい」

さっきのシリアスモードはどこにいったんだか、またすぐニヤニヤし始める。俺と話してるといつだって前田さんは余裕ぶって、いや、本当に余裕なんだろうけど、ニヤニヤしている。気に食わない。

「どんな女があげる友チョコよりも美味しいチョコ、作ってみせます」

「今日どうしたの。テンション高いね」

「高いですよ。何を隠そうお菓子作りは得意ですしね。前田さんをぎゃふんといわしてみせます」

「ぎゃふん!」

・・・なんなんだよ、この人。

「ふざけてないでください、俺は本気ですし!他のチョコになんて見向きもさせないやつ作りますから」

「それなんてプロポーズ?」

そういって笑う前田さん。

言われてみてはたと気づく。

(・・・俺、そうとう阿呆なこと言ってんじゃねぇか・・・)

恥ずかしい。阿呆か。俺こそいきなりハイテンションモードどうしたんだ。

「あとね、ぎゃふんって言ったのは土屋くんの男気にだよ」

「なんすかそれ・・・」

前田さんはからから笑う。

「ま、明日はもうバレンタインじゃないけど、土屋くんに胃袋つかまえられるの、せいぜい楽しみにしてるよ」

「・・・首洗って待っとけ」

そう悔しまぎれに言うと、前田さんはやっぱりからから笑った。

 

「あ、それで。ハイ、いつもお世話になってるからチョコ。本当はこれを言おうと思って来たのに忘れてたよ」

「・・・は?」

「間抜け面だねぇ。安心してよ、手作りじゃないから」

「うぇ、その」

「ちゃんと奮発して高いの買ったんだからね?」

「あ、ありがとうございます!!!」

やばい、嬉しすぎて、単純なんだが、あぁ、もう、好きだ。

「だってせっかくの望月さんLOVE同盟だもん!いつも望月さん情報ありがとう!」

あ、えと、うん。

(そういうことか・・・)

一気に下がるテンション。でもやっぱり手の中にある奮発してくれたらしい(確かによく知らないが高いと噂の有名チョコメーカーだ)茶色の箱が、嬉しくて。

(・・・やっぱ、幸せだ・・・)

 

色々ありますが、うん。

ハッピーバレンタイン!

 

 

 

「土屋くん、いつもありがとうチョコー」

「え、あ、望月。ありがと」

「前田さんも、いつもありがとうございます!」

「は、うぁ、うん、あ、あ、ありがとう・・・!!!」

「手作りなのであんまり美味しくなかったらすみません。あ、食中毒には全力で気をつけました!」

「手作り・・・本当にありがとう・・・」

すごく嬉しそうにしながら、ハッピーバレンタインなんて呟く前田さん。

「・・・間抜け面」

これじゃあ俺のチョコレートのことなんか、忘れてんだろうなぁ。