3、
私には、好きな人がいる。
しっかりしてて、大人で、でもちょっと子供っぽくってイタズラ好きだけど、優しい、どこかさびしげなひと。
でも、あの人と私は釣り合わなすぎて。
大人でしっかりしててダンディなあの人と違って、私は子供だし馬鹿だし身長も低いし頑張っても綺麗系っていうよりは可愛い系だしそもそも可愛くもないし。
あの人はきっとかっこいい大人な女の人が好きだから。・・・先輩の前田さんみたいな。
わかる。好きな人のことだから、みればわかる。
わかって、しまう。
「牧野さんって、好きな人いるんですか?」
わかってるくせにこんなことを聞く私は真性の阿呆。自分から傷をぐじぐじいじりにいってさ。痛いや。
「なんで?唐突だな。」
「いや、牧野さんってすごいかっこいいのに、彼女さんいるってお話聞かないので。好きな人でもいるのかなーって。あ!ちょっとした世間話です!!気にしないで下さい!!」
「ちょっとした世間話が恋バナって望月は女子高生かよ。」
そういってゆるりと笑う。
「んー・・・好きな人かぁ。・・・いないなぁ。」
そういってかふかふ笑う。
って・・・え?
「え!?嘘!!」
「嘘ってなんだよ。いなくちゃいけないのかよ。」
「え、そういうわけじゃないですけど・・・。・・・じゃあ、なんで彼女さんいないんですか?」
「今は仕事忙しいからさ。考えたことねぇなぁ」
え、ほんとですか。じゃあ、じゃあ、私期待してもいいんですか。頑張ってもいいんですか。
・・・あ。好きな人がいないってことは確実に私を好きじゃないってことで。
仕事が忙しいってことは誰か、つまり私を好きになってくれる余裕なんてないってことですか。
・・・なんで、少女漫画のヒロインはさ、好きな人に「好きな人がいる。」って言われて傷付くんだろうね。
好きな人がいるってことは自分が相手に好かれてる可能性が0じゃないのにさ。好きな人がいないってことは相手に好かれてる可能性は0なんだよ。
もし、「好きな人」が自分じゃなかったらいる方がいないより辛いからかな。
・・・どっちでも、きっと、辛いのに。
「え、何でしょげてんの?・・・あ、恋バナしたかった?だとしたら、つまんない男でごめん!・・・・・・あぁ、じゃあさ、望月は好きな人いんの?」
「へ?私?・・・いますよ。」
「お、さっくり言い切ったな。俺望月のそういうところ好きだなぁ。」
「なんか上から目線ですねぇ。」
好きとかあっさり言われると恋愛対象外なことをさっくりつきつけられてさっくり傷付くけど。
でも、ちょっと喜んじゃう私は、浮かれちゃう私は、やっぱり真性の阿呆。
・・・ニヤけるなよ、自分。いい歳して恥ずかしいの。もう女子高生じゃないんだからそんな甘酸っぱいのは許されないよ。
というか、いい加減このやりとり既視感どころの騒ぎじゃないよ。そろそろ怒られるよ。
「いやぁ、上から目線って、俺は望月の上司だからなぁ。実際上だし。」
「きゃー、上司が権力を笠に着てパワハラしてきますー。」
「おまっ!!人聞きの悪いこと棒読みで言うんじゃねぇよ!!お前は全く・・・。そんなんじゃモテないぞ?」
「きゃー、今度はセクハラですか?」
「お前な・・・。」
「・・・一人の人にモテれば私はそれでいいですよ。」
「お、いきなりさっくりそういう台詞言うの滅茶苦茶かっこいいな。真似しよ。」
そういいながら、牧野さんはかたりと立つ。
「あ、残業終わりましたか?」
「あぁ、望月はあとどれくらい?」
「今終わりました。」
「じゃあ、一緒に帰るか。」
「・・・はい。」
こんな暗いなか一緒に帰るとか。実は結構前に牧野さん仕事終わってたのに私を待ってくれてたこと気づいてしまったのですが。・・・こういうさりげない優しさに期待とかしちゃだめですか?だめですか。
・・・私、やっぱ真性の阿呆だなぁ。相手は会社の部下の女の子を夜道危ないから送ってやる程度の気持ちしかないのに。
皆に、やってあげてることなのに。
でも
だって
好きなんだもん。
私の好きなひとは、人たらしです。