6、

「何で望月さんを好きになったか?・・・君は難しいことを聞くねぇ」

そう言って小首を傾げた。

その瞬間、ふわりとハーブの爽やかな香りがただよう。

(・・・前田さんはいつもハーブの香りがする)

シャンプーかな、なんて考えてみたり。

「・・・土屋くん聞いてるー?」

ふっと顔をあげると至近距離に不機嫌そうな顔。

「うわ!な、なんですか!?」

「なんですか、じゃないでしょー。君が聞いてきたんでしょ。『何で望月を好きになったんですか?』って。わざわざ親切に答えようとしたのに聞いてないんだもんなぁ」

「・・・ごめんなさい」

「わかればよろしい。んで?好きになった理由だっけ」

「あぁ、はい。そっすね」

「んー、多分理由はねぇ、ないと思う。気付いたら好きでしたー、みたいな?」

「・・・はぁ」

相変わらずの俺の自傷癖。

「あー、でも多分きっかけは、アレ」

「アレ?」

「コピー機がさ、このオフィス2台あるじゃない?それで、とある日私と望月さんが隣同士で使ってたわけよ」

 

前々から望月さんのことは可愛いなーとは、思っていた。

でも、それだけ。

そんななか、あの日。

彼女はコピーしてた書類で指をばっさり切っちゃったの。

 

「あー、望月ならすげぇやらかしそう。あいつ変なところぬけてるからなぁ」

「・・・何その仲良し感。ズルい!」

「ズルいって。同僚ですしねぇ」

「むー・・・。ま、良いや。話を進めよう。お昼休み終わっちゃう。・・・それでさ、指切ったあとに彼女、何したと思う?」

そういって前田さんはくつくつ笑いだした。

前田さんが惚れるような出来事で望月がしそうなことか・・・。

「絆創膏をすっとだしてすげぇ綺麗に貼ったとか?」

いや、違うな。望月がそんなに備えが良いわけないし、そんなに器用なわけがない。

「え、何。土屋くんってそういう女の子好きなの?」

「そんなことないっすよ。つか、望月が絆創膏持ってるとかありえないですよね。すみません」

「そこまで言わなくても・・・。・・・でね、あの子、いきなり口の中に指つっこんだのよ」

「はぁ?」

「普通切れてたのをなんとかしたいにしても、舐めるだけじゃない?なのに、望月さん自分の口にいきなり切れた指をつっこんだのよ。しかも第二関節くらいまで」

「・・・あいつ、馬鹿じゃねぇの」

「びっくりしたわよー。しかも『大丈夫?』って聞いたら口に指入れたままふごふご『大丈夫です、痛くないです』なんて言ってるの」

「あー・・・」

確かに望月っぽい。

他の奴がやると、引かれるような奇行でもなんだか望月ならば許されるような不思議な雰囲気がやつにはある。

「・・・俺だって、切れた指くらい口の中いれますよ」

なんとなく面白くない。それだけで、それだけで前田さんに好きになってもらえるなんて。

(はは、”それだけ”じゃ、絶対ないけど)

「え、何その俺とあいつは以心伝心みたいなの!そういうのやめて!」

「はぁ」

「ていうかさ、土屋くんばっかり聞いてズルいよ。土屋くんも望月さんを好きになった理由教えてよー」

「はぁ、そっすね・・・」

だから、俺が好きなのは望月じゃなくてあんたです、なんて。

言えないけどな。

ズルズルしているうちにどんどん本当のことが言いだせなくなる。

(俺は本当に、ズルい)

「うーん・・・」

「ね、やっぱり改めてって言われると難しいでしょ!?」

そんなことないです。

俺は前田さんを好きな理由なんていくらでもあげられる。

 

変に涙もろいところが好きだ

瓢々としてるくせに実はすっげぇ素直なところが好きだ

いっつものど飴舐めてるところが好きだ

案外子供っぽいところが好きだ

それでもやっぱり大人の女性然としてるところが好きだ

笑顔が好きだ

もう、言いきれないけど、

(前田さんの全部が好きだ)

 

 

お昼休みの終了を伝える放送が流れた。

「あ、昼休み終わったんで。その話はまた今度」

「え、ズル!」

とか言いながらもうちゃんと仕事モードに入ってるところが好きだ。

 

 

あーあ、

どうしようもねぇ。

 

 

 

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