王子様の話。

「ほんっとに今井さんってかっこいいよねぇ。」

「んー、そだねぇ。」

「ありゃま、テンション低いね。かっこいい系女子はお好みではない?」

「んー、そだねぇ。」

「関ちゃんはお姫様みたいな女の子が好きだもんねぇ。」

「んー、そだねぇ。」

「真面目に人の話聞けや。」

「聞いてるよ!」

すぱこん。

殴られた。

「三浦ちゃん乱暴ですわよー。」

「乱暴なワタクシはお嫌いで?」

「好き!」

「あ・・・、うん・・・。」

「そこで引くなよ!」

まぁ、女子校のなにげなーい会話。

なにげなーい毎日。

「ま、確かに今井さんはイケメンだけどねー。さすが学年の王子様。」

「あ、話聞いてたんだ。」

「だから聞いてるってば。」

今井優衣さん。

バレー部のエース。かつ、もうキッラキラのイケメン。

「そりゃ、モテないはずがないよ。」

「この間ガチ告白されたらしいよ。」

「おぉ・・・、おぉ。」

「まぁ、そういう反応しかできないわな。」

「見た目は割と可愛い系なのにね。」

「見た目は好き?」

「何その言い方、誤解を招く。別に中身も好きだよ?良い人だし。」

まぁ、王子様への一般庶民からの気遅れはありますけど。

しかしまぁ、今井さんは中身も良い人かつイケメンなのである。

うわぁ。

「うんでもさぁ、私はお姫様みたいにふわふわしてる方が好みなのですよ。」

「はいはい。」

「え、そっちから話ふってきたのに!」

「だって、関ちゃんの舘野ちゃん好きはもう聞き飽きたんだもん。」

「舘野ちゃん可愛いじゃん!」

「可愛いけども。関ちゃんまでいくとキモい。」

「ひっでぇ・・・。」

「・・・舘野ちゃんが今井さんファンって話知ってる?」

「私生まれ変わったら今井さんになりたい。」

「引いてる。今私がとても引いてることを君に伝えたい。」

「まぁ、お姫様の隣には王子様がお似合いだもんねぇ。」

「あ、全然伝わってないや。・・・良いの?そんなスタンスで。」

「別に?私みたいな一般庶民がお姫様の隣に立てるなんて最初から思ってないしね。」

「・・・関ちゃんは可愛いよ?」

「なんかごめん。」

「真面目だよー。」

「・・・もともと女の子同士で叶うなんて思ってないし。

むしろ、お似合いの人とくっついて、幸せになってくれたら、それだけで私は幸せだから。うん。」

「・・・関ちゃんが真面目に、すっごく舘野ちゃんのこと想ってるのは、私が、一番知ってるよ。」

すぱこん。

殴られた。

優しく殴られた。

「・・・はは、ありがとね、三浦ちゃん。」

 

 

なーんて会話をさっきしたばっかりなんだけど。

何?この状況。

「ずっと、関さんのことが好きで、えっと、その・・・。」

告白で照れながらあたふたと狼狽する女の子。

わお、今すぐ空を飛べるくらい萌える。

「あんまり、話しかけたりとかできなくて、でも、ずっと好き、で!」

私に好きって言ってるの?何これ、夢?

「つ、付き合ってくれませんか!」

でもさ、ごめん。

あなたには私みたいな人似合わないよ。

だって、だって、

「・・・ごめん、私、好きなひといるんだ。」

本当に、ごめん。

ごめんね。

「ごめん、今井さん。」

 

 

「・・・っ、やっぱり、女の子同士だから?でも私よくかっこいいって言われるし、だから・・・!」

「そういうことじゃないんだ。それに今井さんは可愛いよ。」

「・・・ズルい、ふった後にそういうこと言う、なんて。」

「私の好きな子はね、女の子なんだ。」

「へ?」

「お姫様みたいで、ふわふわの女の子。・・・叶うはずのない想いだし。」

今井さんが好きになったのが私じゃなくて舘野ちゃんだったら。

もっと世界は幸せになれてたのになぁ。

「だから、それなのに告白してくれた今井さんの勇気にはすごい感動してるし、尊敬してるし。・・・感謝してる。」

「・・・私、王子様なんかじゃなくてお姫様になりたかった。」

「ごめん。」

「おためしでも、なんとなくとかでも良いから、付き合ってくれたり・・・しないよね。」

「うん。他に好きなひとがいるのに他の人と付き合うなんてことは、できない。そんなことしたってもっと今井さんを傷付けちゃうだけだし。」

「・・・だから、そういう優しさは、ズルいよ。」

「ごめん。ありがとう。」

「私こそ、変なこと言って、ごめんね。」

そう言って駆け出した今井さんの足はとっても速かった。

(さすがバレー部のエース様。)

そんなことを思いながら、

もう一回、

「ごめん。」

と、呟いた。

誰に届くわけもない謝罪は、空へと、消えた。

 

(・・・世の中は、こんなにも上手くいかない。)

 

 

 

優しい嘘なんてものは、果たして世界に存在しうるものなのだろうか。

そんなもの決まっている。NOだ。まごうことなきNOである。

その時には優しい嘘でも、その嘘は誰かを巡り巡って傷つけているに違いないのだ。

そうに決まっている。

そうに決まっていないけりゃ、私はもう、どうすりゃいいのかわからないんだ。

「へぇ」

「え、やだ!三浦ちゃん反応薄っ!」

「わりかしどうでも良い」

「・・・はぁ」

「・・・今井さんに告白された、と?」

「え、なんでわかるの!?」

「だって、私今井さんに相談されたもん。関さんの個人情報教えてーって」

「そんな直接的な物言いを・・・」

「んで、個人情報を大量流出しておいた」

「個人情報保護法ぅ・・・」

「お前にプライバシーなんぞ存在しない」

「・・・うええぇぇ・・・」

「・・・そっかぁ」

「ん?」

「今井さんやっぱり関ちゃんに告ったんだ」

「・・・?うん」

「・・・そっかぁ」

「・・・どしたの?三浦ちゃ、」

三浦ちゃんが泣いていた。静かに静かに泣いていた。

「あ、ごめん」

「ど、どうしたの!?」

「・・・私、今井さんのこと、好き、だったんだよねぇ」

「・・・え?」

「やっぱり、今井さん、関ちゃんのこと好きだったんだねぇ」

どうして、

どうしてこうも世界は、上手くいかない。

 

(神様は、さいてーだ)

 

 

 

「・・・よし」

人にはやらねばならない時がある。

(・・・そんなの、今じゃん)

やらねばならない時が、あるんだ。

 

放課後に、あのこを呼び出す。

ずっとずっと大好きなあのこを。

 

「いきなり呼び出しちゃって、ごめんね。」

「ううん、別に。なあに?」

「・・・あのね、私、舘野ちゃんのこと、好きだよ」

「え?」

「友情の好き、じゃない。恋愛の好き。恋してる」

「・・・ぇ」

「ごめんね、気持ち悪いよね。・・・でも、本気だから」

「・・・ごめん。気持ちは嬉しいけど、こたえられない」

「・・・うん」

「今はまだ、恋、とか。・・・わかんないんだ。」

「・・・うん」

「・・・だからね、これから、関さんが教えてくれると、嬉しい、な、なんて・・・」

「・・・え?」

え?

「あの、恋とかわかんなかったんだけど、今、関さんに、告白されてドキドキしてるんだ」

今はそれじゃ、駄目かな?

なんてそんな。

「いや、本当に嬉しい!ありがとう!」

泣きそう。

ちょっと本当に泣きそう。

いや、泣いてる。

「せ、関さん!?」

あーあ

私、本当に、舘野さんのことが、

大好きだ。

 

 

「舘野ちゃんに告白したの!?」

「うん。えへへ」

「幸せそうだね・・・」

「うん、幸せ!」

ははは、と微妙な顔して笑われた。

「でもさ、なん、で?」

「今井さんに勇気をもらったんだ、ほんと。こんなに私を想ってくれる人がいるのに、私が逃げてちゃ、駄目でしょ?」

「・・・関ちゃんは、本当に強いよね」

「そんなことないよ。今まで逃げてた。・・・臆病者だよ」

「臆病なんかじゃないよ。・・・関ちゃんは、優しくて、強い」

「・・・ありがと」

「・・・私、告白は無理だけど、頑張って、もう少しアプローチしてみる」

「・・・うん。頑張って」

「・・・ありがと。ってことで行ってきます!」

「行動はや!」

でも、やっぱり、

(三浦ちゃんは笑顔の方が素敵だ)

 

 

世の中なんて上手くいかないことばっかりだけど。

それでも、私達はそこそこ楽しく笑っていきている。

(それだけで、笑っていられるだけで、幸せだから)

 

 

今日も今日とて、いつも通りの日々が、まわりだす。