2、吊革
今日こそは話し掛けてみようかな、と毎日思うのです。
・・・やっぱりチキンなんだよ。臆病者なんだよ。どうしようもないんだよ。
話し掛けてみようかしらん。やっぱり無理かしらん。
ぐるぐると思考が廻る。
関係ないけど昔の人ってどうして“かしらん”って言うんだろう。調べればわかることだけどめんどくさい。
怠け者なのかしらん。
怠け者なのです。
思考は廻る。
今日あのこを見つめる。
あぁ、好きだなぁ。
しみじみ。
「先生。」
あ、声が出た。まるで今始めて気付いたかのように。話し掛けようか迷ったことなんてないみたいに。
「え?」
「山田先生・・・ですよね?私河津です。河津亜季。覚えてませんか?」
お、なかなか良い感じではなかろうか。自分すごい。コミュ力高い。素敵。
「あぁ、久しぶり!!元気?って手紙の書き出しみたいだけど。」
ははは、と笑う。
優男風のマイルドな声、笑顔、話し方。ヤクルトみたいな人。
昔を思い出す。
思い出すから何が起きるわけでもないけど。
今始めて気付いたなんて。そんなことあるはずないのに。完璧な笑顔で笑っちゃってさ。
勇気を出して話し掛けて。
私と先生の電車での、どうでも良い毎日は始まるのです。
・・・話し掛けられるとか予想外だけど。焦る。でもまぁ、あのこの声をいっぱい聞けたから、何でも良いや。