犬の遠吠えだけ。
ワオオオン
どこかで犬が、鳴いている。
『犬の遠吠えって、なんだか泣きたくならない?』
そう笑った彼女の笑顔をふと思い出した。
僕は思い出してしまった彼女の笑顔に泣きたくなった。
『ゆーくんは男の子のくせに泣き虫だなぁ。』
そう言って、かかかと笑った彼女を思い出して。
でも、結局本当に泣き虫なのは、君だったんだ。君がよく笑っていたのは涙を誤魔化そうとしていたんだって、僕は気付いてた。
そんな君が大好きだった。
大好きなんだ。
君もきっと、僕を好きでいてくれていた筈なのに、どうして。
どうして君は行ってしまったんですか。
『ばいばい、ゆーくん。まぁ、私のことは忘れて幸せに生きてよ。』
そんな風に笑って。
(・・・君を忘れるなんて、できるわけないのに。)
君は僕の大部分で。僕の大部分は君で。
そんな君を失った僕は、バラバラになって、生き方がよくわからなくなっちゃったんだ。
君なしで幸せになんてなれないよ。
僕は君で君は僕なんだから。
僕の幸せは君の傍にいることなんだ。君が傍にいてくれたら僕はそれだけで幸せなんだよ。
(・・・会いたい、なぁ。)
願ってもどうしようもないこと。
君にもう一度会えるなら、僕はなんだってする。君がもう一度笑ってくれるなら僕は死んだって良い。
しつこい男って怒ってもいいから。僕はどうせ諦めが悪いさ。
(・・・会いたい。)
ワオオオン
どこかでまた犬が、鳴いていた。
「なぁ。」
どうして
「・・・どうして死んじゃったんだよ。」
言葉にするとそれは途端に現実味を帯びて。今まで目を逸らしていたものが目の前に現れて、僕を責める。
気付くと頬に涙が流れていた。
・・・僕の隣で、ずっと笑ってくれるって約束したじゃんか。
『ゆーくんは泣き虫だからね。ずっと傍にいて涙を拭いてやろうじゃないか。』
そう、いったじゃんか。
好きなんだ。愛してるんだ。
その言葉を言える相手はもういなくて。
虚しく夜の空気に消えていく。
ワオオオン
どこかで犬が、泣いていた。